東京地方裁判所 昭和62年(ワ)14542号 判決 1990年5月16日
原告 東和銀リース株式会社
右代表者代表取締役 福島康弘
右訴訟代理人弁護士 高野敬一
被告 有限会社 アドヴァンス
右代表者代表取締役 鎌田真弓
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 天野耕一
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金二六〇万〇一〇〇円及びこれに対する昭和六二年二月二五日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨の判決及び仮執行の宣言
二 被告ら
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、訴外鈴木孝夫(以下「鈴木」という。)との間で昭和五八年五月二五日左記条件によるリース契約を締結した。
記
(一) リース物件
(1) 空調機器(売主 株式会社エアコンサービス)
(サンヨーSPW―R五〇―UTCH一式)
(サンヨーSIM―E一〇〇W一式)
(2) 店舗什器(売主 工藤工作所)
(什器、備品)
(二) 物件の引渡
埼玉県草加市栄町三丁目一番二〇号
訴外鈴木の店舗内
(三) リース期間
昭和五八年五月二五日から同六三年五月二四日まで
(四) リース料
一か月あたり(一)(1)、同(2)の合計金一四万一〇〇〇円
(五) リース料の支払日
毎月一日限り
(六) 原告は、鈴木が次の各号の一に該当したときは催告をしないで契約を解除でき、その債務について期限の利益を失わせることができる。
(1) リース料の支払を一回でも怠ったとき
(2) 小切手または手形の不渡を一回でも出したとき
(七) 契約が解除されたときは左記損害金を支払う。
規定損害金の基本額六七八万七〇〇〇円から逓減月額を控除した金額ただし、逓減月額の額は、契約期間を二分割し、その前半の第一月から第三〇月までは九万二五五〇円、後半の第三一月から第六〇月までは一二万三四〇〇円。
(八) この契約に基づく債務の支払を遅滞したときには、支払うべき金額に対しその支払完済に至るまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金を支払う。
2 被告有限会社アドヴァンス及び被告鎌田真弓は、前記昭和五八年五月二五日、右契約に基づく訴外鈴木の原告に対する一切の債務につき連帯保証した。
3 本件リース物件の売主は、訴外鈴木に対し、右同日、本件リース契約に基づき、1(一)の物件を引き渡した。
4 訴外鈴木は、原告に振出した次の約束手形を不渡にした。
金額 一四万一〇〇〇円
満期 昭和六一年一一月一日
支払地 草加市
振出地 草加市
支払場所 株式会社三菱銀行草加支店
振出日 昭和五八年五月二五日
5 そこで、原告は、訴外鈴木に対し、昭和六二年二月二〇日に前記1(六)の(2)を理由に、内容証明郵便にて、本件リース契約の解除の意思表示と規定損害金二〇三万六一〇〇円及びこれに対する解除の効力が生じた日の翌日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の請求をなし、同郵便は同月二四日に同人に到達した。
なお、右規定損害金の計算は次のとおりである。
規定損害金の基本額678万7000円-(逓減月額9万2550円×払込回数30回)-(逓減月額12万3400円×払込回数16回)=203万6100円
6 訴外鈴木は、昭和六一年一一月分から同六二年二月分までのリース料五六万四〇〇〇円を支払わない。
7 よって、原告は、被告らに対し、各自規定損害金二〇三万六一〇〇円と未払金五六万四〇〇〇円の合計二六〇万〇一〇〇円及びこれに対する昭和六二年二月二五日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による約定遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の各事実は認める。
2 同3の事実は否認する。
原告は、主債務者訴外鈴木に対し、リース契約に定める物件の引渡しをしていないから同人には本件リース契約に基づく義務はなく、従って被告らもこれに関する連帯保証債務を履行する責任はない。
3 請求原因4ないし6の各事実は知らない。
三 抗弁(錯誤)
1 本件は、主債務者鈴木が訴外株式会社エアコンサービス及び同工藤忠夫と共謀して、リース物件の引渡を伴わない金員借入のための空リース契約をしたものである。右鈴木は、このことを被告らに隠し、あたかも真実リース契約をするかの如く装ったため、被告らは、真正なリース契約と誤信し、本件リース契約について連帯保証をしたものである。
2 リース契約と金銭消費貸借契約とは、契約の内容に大きな隔たりがあり、その法規制も根本的に異なっているものであるからその保証する内容にも大きな隔たりがある。保証契約がリース契約についてのものか金銭消費貸借契約についてのものかは重大な差異であり、被告らは、本件契約が空リース契約で実質的に金銭消費貸借契約であると知っていれば、保証契約をしなかった。この差違は意思表示の要素に該当する。
従って、本件連帯保証契約は、意思表示の要素に錯誤があるから無効である。
なお、被告に過失があったとの原告の主張は争う。
四 抗弁に対する認否及び主張
抗弁は、争う。
被告らは、本件リース物件の引渡がされておらず、いわゆる空リースであったとしても、その引渡しの有無を容易に知ることができる立場にあったのであるから、その事実を確認しなかったことについては重大な過失がある。
第三証拠《省略》
理由
一 請求原因について
1 請求原因1、2の各事実は、当事者間に争いがない。
2 請求原因3について
(一) 《証拠省略》を総合すると、本件リース物件である空調機器及び店舗什器が鈴木の店舗内に搬入引き渡されたかどうかについては疑問があり、少なくとも空調機器及び店舗什器の一部についてはリース物件の引渡しを欠くいわゆる空リース契約であったことを窺うことができる。《証拠判断省略》
(二) そして、リース契約は法形式上は賃貸借契約であり、リース料は賃借人(ユーザー・本件においては鈴木)の対象物の使用収益の対価である。鈴木がリース物件の引渡しを受けておらず、その使用収益をしていないときは、リース料債権は発生せずひいては規定損害金債権も発生しないのが原則ということができる。
(三) しかし、本件リース契約は、リース物件をユーザーがディーラー(販売業者)から買い受ける資金についてリース会社(本件においては原告)から融資を受けるという実質を有しているものである。
(四) そして、《証拠省略》によれば、右鈴木とディーラーたる株式会社エアコンサービス及び工藤孝夫とが共同して、リース業者たる原告に対して物件引渡しがされた旨表示し、右エアコンサービスと工藤とが代金として金員を受け取り、その全部又は一部は鈴木に交付されていることが認められる。
このような場合においては、信義則上、鈴木は、本件リース契約に基づく債務につき、引渡の欠缺を抗弁とすることはできず、その責めを免れない。 3 鈴木が昭和六一年一一月に手形不渡を出し、原告がこれを理由として昭和六二年二月に本件リース契約を解除したこと及び原告主張の請求権が発生したことは、《証拠省略》によって認められる。
二 抗弁について
被告らは、本件リース契約が目的物件の引渡を伴わないいわゆる空リースであったことを知らずに保証をしたもので、本件保証契約には要素の錯誤があると主張する。
しかし、本件リース契約は、前に判示したとおりリース会社から空調機器等の代金について融資を受け、リース料の支払によってその融資金の返済をするという実質を有している。
そして、本件リース物件たる空調機器や店舗什器は、いったんユーザーにおいてその使用を開始した後においては客観的価値は急速に低下し、相当時日が経過した後は担保的機能を殆ど持たない。また、弁論の全趣旨によれば、本件リース契約締結から同契約解除までには四年余の期間が経過しており、鈴木は、その間にリース料債務六〇回分のうち四〇回分を支払っていたことが明らかである。
このように本件契約が空リースであることがそのリース料の支払状況に特段の影響を及ぼしているとも認めることができない。すなわち、本件リース物件について鈴木への引渡がなかったことが、被告らの利益を著しく害する特段の事情があると認められない。
以上のような事実関係の下では、被告らの本件リース契約についての保証は、現実に目的物件の引渡がない点に錯誤があったとしても、リース会社から金融の利益を受けて、これをリース料として割賦返済をすることについて保証する意思が認められる以上、その意思表示の要素に錯誤があるとはいえない。
被告らの抗弁は採用することができない。
三 以上によれば、その余の判断をするまでもなく、被告らは鈴木の債務につき連帯保証の責任を負うべきものであって、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲葉威雄)